ある朝 | INTRA DIALOGUE

ある朝

日射しがやけに黄色がかって明るかった

12月なのにそれほど寒さは感じない朝だった


僕は布団の中でうとうとしながら頭の中を後悔がぐるぐるしていた

昨日,最後の言葉を伝え忘れたこと

既に一昨日徹夜でミミに寄り添って疲れていた僕は,

昨晩,不覚にも最後の言葉を言う手前で,眠りに落ちてしまった


時間は朝7時,

後悔の中,二階の自分の部屋から一回のリビングに降りていくと,

そこで,奇跡は起きた


まだ,そこでは浅い呼吸が続いていた

身体は既に硬直していて,4本の足は変にピンと延びていた

視力はほとんど残っていないと思う

でも,母親がスポイトで口元に水を持っていくと

まだ,ゴクゴクと喉を通っていく


僕は,喪失を目前にし,はじけるような暖かさを感じた

それは,生命が刻む一定のリズムの反復,生命の強さそのものだ


僕は,昨晩言いそびれた最後の言葉を告げた

それは約束の言葉だ

彼岸の先の希望を願う言葉

この15年を懐かしみながら,この別れの意味を刻みつける言葉

また,必ず再会できることを疑いも無くただ信じる言葉

「ありがとう,また会おうね」


僕は,朝食を作って食べ,その言葉を告げ,

土曜の研究会の発表の資料を準備しに自分の部屋に上がった

時間は8時30分くらいだったと思う


昨晩も眠りが浅かった僕は,うとうとしながら,文章を書いていた

気づくと時計は10時前を指していた

気分転換に下に下りていくと

既にミミの姿は無かった

父親がいたから聞いた

もう既に分かっていたけど

父親から変に力の無い返事


やはり日射しは変に黄色かった

寒さがあまりない朝だ

静かな朝



ミミには,15年前に一緒に家に来たリリという姉妹の猫がいた

リリは,既に8年前に交通事故で亡くなっている

ミミはそれからその猫の分も一人でずっとずっと長生きしてきた

今頃,ミミはリリと再会しているのだろうか


ミミ,リリと会えたか?

お前ら仲良かったもんな